<Lily of the valley-夢ではないのです>
『流石に自分の犯した過ちも認められないような奴には付き合ってられないな』
ガイはそう言い残して、アッシュと一緒に俺を置いて街の奥へと行ってしまった。
その場に残ったのは、相変らず脚にしがみ付いて離れないミュウと、俺だけ。
もう泣き過ぎて涙も出ない。
座り込んだまま、頭上を仰ぎ見る。
半円状に覆われているユリアシティの天。
何だかここは檻のようだ。ファブレ公爵邸に似ている気がする。
高い塀で外界から遮断されたような造りをしていた屋敷に。
屋敷の事を考えたら、過去での自分の行動もついでに思い出されてきて、俺はつい笑い出してしまっ
た。
これは所謂、自嘲ってものだ。
自分の態度一つで周りから次々と人が居なくなっていく。
唯一の理解者であったガイまでもが俺の傍から居なくなった。
どうしようもなく自分が愚かにしか思えなくて、笑えて来る。
つくづく俺は救えないヤツだよな。
笑いながら、俺はふと人の気配を感じてゆっくりと左に顔を向けた。
何時の間にか俺の左隣にはテオドーロ市長が居た。
静かに佇んで、じっと俺のことを見つめている。
俺は僅かに首を傾けて問いかけた。
「俺に、何か用ですか?」
敬語で話すことは忘れない。年寄り・・・じゃない、年上は敬うものだからな。
俺が訊ねても、テオドーロさんは座り込んだ俺を見下ろしたまま、喋ろうとしない。
ティアの瞳の色に似た眼で、ただ静かにその場に佇んで俺を見ている。
何だろう。俺何かしたかな・・・。別にユリアシティでは何もしてないし、ここに来るまでだって―――
俺がテオドーロさんに見つめられる理由を探していると、ついにテオドーロさんが口を開いた。
テオドーロさんの告げた言葉に、俺は絶句した。
「ルークレプリカ。お前は、悔いているのか」
気配が無いみたいにその場に立っているのと同じように、また声も淡々としていて、まるで音機関の類
が喋っているように聞こえる。
責める訳でもなく、ただ俺がどう思っているのかだけを直に問い掛けて来ているテオドーロさんの言葉。
口を開いて、でも直ぐに一度閉じて唇を舐める。声を出そうとして、なかなか上手くいかなくて、もどか
しい。何度か口を魚みたいにパクパクさせてから、結局俺は
「はい・・・」
と、だけ言った。項垂れて、地面を見る。言いたい事は沢山あるのに。それを実際には言葉に出来なく
て。
テオドーロさんはまた少し黙っていたけど、唐突に街に向かって歩き出した。
着いて行かないで、その場に座っている俺を一度だけ振り返って
「ついて来なさい」
「あ・・・。は、はい」
慌てて俺は立ち上がって、テオドーロさんの後を追いかけた。
―――パキッ、・・・パキン
何かが、割れる音が響く。何の音だ、これは。
頭のずっと奥で、時折響いてくる不可思議な音。まるで何かを失くしかけている様な、そんな気持ちに
させられる。
だけど。
その<何か>を思い出す以前に、何時も目が覚めてしまう。
ふっ、と瞼を持ち上げれば、見慣れない天井が視界へと飛び込んできた。
無機質な素材で作られている天井、壁。そして僅かな振動と共に床が揺れ動く感覚。
あぁ、ここはタルタロスの艦内か。
上半身を起こして、無造作に顔に垂れ下がってきている前髪を掻き揚げる。
ユリアシティから外殻大地へと戻ってきて一日が過ぎた。
俺はのろのろと身体を起こし、小さな丸窓の外を見た。
外殻大地の空は<まだ>蒼かった。
「おや、漸く起きましたか?随分とのんびりしていますね」
第一声にから嫌味を飛ばしてくる眼鏡を一瞥し、俺は嫌味に対しては何も返さずに、用件のみを言っ
た。
「これからベルケンドへ向かう」
俺がそう言うと、眼鏡が微かに方眉を吊り上げた。だが、何を言う訳でもなく大人しく進路をベルケンド
へと向けた。それから何気なく見た先に、ナタリアの姿があった。
ナタリアは胸の前に手を添えて、窺うように俺を見ていた。
「どうした」
「あ・・・、いえ、何でも、ありませんわ」
俺から声を掛けられるとは予想だにしなかったのか、ナタリアは歯切れ悪く答える。
僅かに気まずい沈黙が流れ、守護導師役のガキからチクチクした視線が向けられ、背後からも眼鏡
が見ている事にも気配で気がついた。この状況を面白がっている事は、明白だ。思わず舌打ちをしか
けた時、ナタリアが
「貴方が居てくれて、本当に良かった・・・」
小さな呟きを漏らした。
俺はナタリアの言葉を訊いた瞬間、何故か身体が凍りついたように動かなくなった。
お前が<今>求めていたのは、本当に<俺>なのか。
頭を過ぎった疑問に、俺自身が困惑した。
何なんだ。この違和感は。
視線を落とし、己の掌を見る。
それは確かに俺の右手であるはずなのに、何故か別の、誰かの掌を見ているような感覚がする。
しかしどれだけ考えてみても、思考を廻らせてみても、違和感を拭い去る事は出来なかった。
そして俺は未だ気がついていなかった。
複製品への回線が繋がらない事に。
俺はアッシュが なんだよ
だからどうか
消えないで
今回お待たせしていた割には、文章がもの凄く短いで
すすみませんorz
次でルークは外郭大地に戻ります。
next→
02.27